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アマナ・ガッパの海商法(仮訳)

Melihat sekilas "Hukum pelayaran dan perdagangan Amanna Gappa" sejak 1676

ブギス・マカッサルの海商人の生きざまを垣間見る

September 19, 2023

脇田 清之

東南アジア各地で船を襲い、奴隷を狩りしたブギス(マカッサル)の海賊の話ご存知ですか? 白石隆著「海の帝国ーアジアをどう考えるかー」(中公新書1551)には彼ら海賊たちの活躍ぶりが詳しく書かれています。

「、、、つまり、ごく簡単にいえば、東インドの海域世界において、十八世紀はブギス人の世紀だった。ブギス人の武装帆船がこの地域の制海権を掌握し、ブギス人の商人が東インド貿易を支配した。」(中公新書 1551 海の帝国 アジアをどう考えるか p43)

ブギスの 武装帆船は17世紀から19世紀にかけて東南アジアの海域における貿易を支配していました。ブギス(マカッサル)の人達が東南アジアの海域で活躍できた背景には二つの要因が考えられます。

1)南スラウェシ各地には古くから伝統的な木造船産業があったこと。最近 (7/12/2017)、伝統的な木造帆船「ピニシ船」とその造船工法が 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「人類の無形文化遺産」に登録されました。しかし、近年、木造漁船はFRP製の漁船に対抗できず、受注が激減しているようでこれからが心配です。

(上の写真:1997年頃の南スラウェシ州ブルクンバ(Bulukumba)県のタナベル(Tanaberu)地区に約2km にわたり延々と続く造船産業の村)


(サロンポンサロンポン型帆船 南スラウェシの伝統的な木造船は平穏な東南アジアの海域では英国、和蘭のガレー船の性能を上回っていたという。帆の形は時代とともに変化します。ピニシは19世紀後半以降の帆走装置ですが船体構造は概ね同じです。)

(ピニシ型帆船 西欧の中型帆船、ピンネース Pinnace が訛ったものと思われます。)

2)「アマナガッパの海商法」(Hukum Pelayaran dan Perdagangan Amanna Gappa) の存在。この海商法は 1676年にマカッサルの港湾管理役であった Amanna Gappa によってつくられ、当時の船長たちの航海や商取引の指針(ガイドブック)になったと言われています。

今回は 彼らの航海の指針となった「Amanna Gappa の海商法」を読んで17世紀から19世紀にかけて、東南アジアの海域で活躍したブギスの海賊と呼ばれた人達の生き様を覗いてみたいと思います。

Amanna Gappa の海商法(仮訳)Terjemahan bahasa jepang untuk sementara

この海商法にでてくる船内の職種の説明(参考)

第1条

航路と運賃について(一例のみ紹介)

Makassar, Bugis, Paser, Sumbawa, Kaili からAce, Kedah, Kambojaまでの運賃: 商品価格の7%(rial) さらに、Ace, Kedah, Kambojaから Malaka, Johor Tarapuo, Jakarta, Palembang, Aru までの運賃: 商品価格の6%(rial)

輸送に大きな場所を必要とする、たとえば 米、塩、籐などのような物品の運賃; 商品価格の 11% (rial)

上の写真:当時の航路図(フィリピン諸島まで航路毎に料金が定められている。)

第2条

航海の収益の分配について、ジュル・ムディ(juru mudi)、ジュル・バツ(Juru batu) が船主の友人ではない一般的なケースでは、収益は船主と乗組員で対等に分ける。彼らが船主の友人である場合は、収益は三等分にして3分の2を船主に、残りの3分の1を乗組員に与えられる。 船の乗組員の間で争いがあった場合、ナコダ(nakhoda)が仲裁し、裁判に訴えられないように、問題を解決することが義務付けられている。

第3条

(目的地まで輸送した貨物が売れなかった場合の規定)
売れなかった貨物を持ち帰る場合の輸送費は正規運賃の半額とする。 船は目的地に到達出来なかったが、途中の寄港地で荷物が売れた場合には全額の輸送費を支払うこと。 船が目的地に到達出来なかった場合、そして他にも寄港しなかった場合、ナコダ(nakhoda)は荷物の運賃を請求できない。そして近い将来に同じ目的地への航海を義務付けられる。

第4条

ナコダ(nakhoda)は乗客から運賃を受け取ったあと、乗客の合意なしに航路を変更する場合には、他の船を用意しなければならない。

乗船者はすべて水夫の一員として行動する必要があり、次の4つに分類できる。
1は、常勤の水夫(kelasi tetap)で、航海中は船から離れてはいけない。母港に停泊中にあっても修繕工事がある場合にはサポートする必要がある。船内に溜まった水を汲み取る(timbaroang)責任もある。業務を怠った場合は補償支払い(kanaungeng, 5 reals)の義務がある。
2は自由な水夫(kelasi bebas)、船を離れることが認められている。
3は乗客の水夫(kelasi penumpang)、船を離れることが認められている。
4は荷物を持たない乗客(orang menumpang)(船倉の使用は認められない、身のまわりの物は甲板上に置く)。
航海中に海が時化たとき、船の安全性を確保するため、乗客の荷物を検査し、申告よりも重い場合には直ちに投棄する。それでも船が重い場合、乗客の荷物を投棄する。さらに常に船を守る水夫の荷物も海上投棄されることがある。最終段階では常に船を守る水夫、ナコダ(nakhoda)の荷物も投棄される。

第5条

船の装備が破損した場合、ジュル・バツ(Juru Batu)は水夫を使って修理、監督する権限をもつ。

第6条

ナコダ(nakhoda)として満たすべき要件は次の15項目である。

第7条

特に船に限ったことではなく、馬車を使った交易でも共通することであるが、商取引のためのための5つの条件がある。

第1の原則、取引により生じた利益、損失は互いに共有する。

商品の供給者とディーラー(販売者)との関係では、後者が義務を果たしていれば、損失が出た場合の負担も半分になる。義務を果たしていなければ損失の全額を負担しなければならない。

預かった商品が損害として認定されるのは次の三つである。
海水による被害
火災による被害
盗難

損害として認定されないものに7種類ある:
賭博に使った商品
売春婦を確保するために使った商品
結婚するために使った商品
こわれた商品
第三者に貸している商品
試供品
食用として買った商品

第2の原則、samatula(ヒンデン語)と言われているが、商取引に問題がなくても、不良品が出た場合は、荷主が全ての損害を被る。 一方、商人側の怠慢により発生した損失は商人が弁済しなければならない。 利益が出た場合は荷主2、商人1の割合で分ける。

第3の原則は inreng teppe と呼ばれる。無利息の信用貸しで、借主は無利息で決められた日時に返済しなければならない。

第4の原則は inreng nrewe と呼ばれる。商品の価格は他者へ信用貸し(credit)する前に決めなければならない。債務者は商品を販売したか、他の商品に交換したらば直ちに支払わなければならない。販売できなかった場合は商品は直ちに荷主に返さなければならない。

第5の原則は kalula と呼ばれる。kalula は confidant の意味。腹心の友が自己の責任によって損失が出ても、その賠償責任は彼の家族には及ばない。

第8条

航海中に借金をした人が死亡した場合、債務はその家族に請求されるべきではない。また彼らは支払う必要もない。 しかし借金について家族が承知していれば妻とその家族は支払う必要がある。

第9条

商品の相続に関する規定

最初の婚姻関係のある時点で得られた商品の相続は妻の子供に受け継がれる。二度目の婚姻関係のある時点における相続は先妻の子供、後妻の子供に割り当てられる。負債の場合も同様である。

もし相続が十分でなかったり、また負債を相続するなどの規定通り行われていない場合は相談することを推奨する。

第10条

商人間の紛争の調停について、 村議会に控訴される場合、評議会に諮られる。評議会は村長はじめ村の主導的なメンバーによって構成される。メンバーは神(イスラム)の律法に則って判断する。両者は取調べを受け、両者とも問題なしとされた場合は神の判断に従う。

調停が終わったあとの暴力を振るっての争いは許されない。

第11条

航海中、水夫間で争いがあった場合は、ナコダ(nakhoda)は関係者が上陸する前に、船内で問題を解決させることが求められる。 ナコダ(nakhoda)が船内で問題を解決しないで、外国の寄港地で判断を仰ぐことは好ましくない。

第12条

利益の分配( bagi laba )に関しては既に第7章に規定したがここに追記する。

商人が帰国しないとき、荷主は商人がすでに死亡していると判断できる理由があれば、荷主は商人の家族に対して一定額の弁済を求めることができる。金額は投資額の半分である。荷主が半額の弁済を受けたあと、仮に死んだ筈の商人が商売を成功させて帰国しても、もはやそれ以上の弁済を要求することはできない。

しかし、商人は実際に死亡していたが商品は残っていて規則通りの処理が行われていなかった場合、商人の家族は100%返済しなければならない。

第13条

債務者について4つの分類

第14条

負債の消滅について3つの形態について記述する。

riukke' ponna
債務の返済に全財産を使われていて、まだ支払が不十分である場合、不足分をカバーする為、自身を奴隷として一定期間のあいだ債権者に奉仕しなければならない。
奴隷として一定期間債権者に仕えたあと、債権者はもはや債権を請求することはできない。たとえ後日、債務者が大金持ちになったとしても。

riraung cempa
債権者は債務者を奴隷として使う前に、債務者の価値を見積る。例えば債務者は債務者が将来得るであろう利益を支払いに充てるよう請求できる。

Rirappasorong
複数の債権者を持つ債務者で、債務の返済が出来なかった場合、債務者の財産は村の議会に供託できる。村議会は供託金を債権者の債権の額に応じて分配する。十分な返済が出来なかった場合には、債務者を奴隷として一定期間使うことができる。これに対して債務者は異議を申し立てる事はできない。

第15条

商品運搬の奴隷について
航海中、運送に携わる奴隷が腐敗から商品を守るなど商品の取扱い規則に従って適切に扱わなかった場合、ナコダ(nakhoda)は商品を押収して不良品を売却することができる。その場合、ナコダ(nakhoda)は売却についての責任が生じる。しかし出航前に荷主から権限の委譲を受けていた場合、ナコダ(nakhoda)は責任を免れることができる。

第16条

航海中に商人が死亡した場合、船内で確実な相続人を探さなくてはならない。船内における商品の相続は立会人のもとで行うこと。もし船内で適当な相続人が居なかった場合にはナコダ(nakhoda)がこれを相続する。ナコダ(nakhoda)は相続した商品により利益を得ることができる。しかし船が母港へ帰着したときは商品、または貨幣で死亡した商人の家族へ引き渡すこと。

第17条

(支払いについての指針)
借金をした場合、返済は通貨で行うこと。商品を借りた場合は商品で返済すること。もし借金をして商品(もの)で返済する場合には、商品の価値の判断は仲介者を入れて行う。これと逆の場合には両者の合意による。基本的に商人間の相互合意があれば支払い方法は自由に決められ、”taro anappalallo bekka' temmakkasape'”と呼ばれている。

第18条

腹心の友が雇い主を代行しての取引において、本人の怠慢によって生じた損害は本人がその責任を負い、保証しなければならない。しかし本人の家族や親族は責任を負わない。これは kalula と呼ばれている。本人に金が無いならば、奴隷として仕えるよりも、もう一度航海に出ることを許すほうが良い。そうすれば将来金を稼ぐことができる。(訳注:第7章にも kalula の記載あり)

第19条

教師(guru)の知らないところで教師の息子が、他人から借金をした場合、借金を教師が支払う義務はない。
しかし、もし奴隷が商品の販売を命じられていて、販売が終了しない前に、第三者から借金をしていた場合、たとえ奴隷が逃亡していても奴隷の雇い主は返済する必要がある。
奴隷は彼らの主人の了解なしに借金してはいけない。

第20条

海上で航行中の船舶に救助を求める場合、すでに孤島に漂着したとても、もはや生命を持続できる状況でない場合、ナコダ(nakhoda)は既定の料金を請求できる。しかし孤島には十分な食料がある場合、ナコダ(nakhoda)は 4 real だけ請求することができる。
海洋上で救助を求める場合、救助される人の市場価値によって請求する金額は異なる。 ナコダ(nakhoda)からの請求に対して支払いを拒絶した場合、村議会に諮られる。村議会の決定は尊重されなければならない。

第21条

この章はUjung Pandang (Makassar) の 会議場において、Makasssar のWajo首長がSumbawa 島及びPaser(東部カリマンタン)に在住のWajo首長と 航海のシステムと商法(海商法)に関する教書を批准した際の Amanna Gappa のメッセージである。この海商法が子孫代々に、またすべての商人によって順守されることを願っている。

慎重に検討すべき2つの対象があり、金を借りる人と金を借りる場の問題である。

注意を払わなければならないことは、より影響力のある人に利益配分してはいけない、また、利息の為に借金をすることは良くない。醜いのは、意図的にしばしば商業に関する税制に従わないことである。もしあなたが利益を得るため借金をする場合、自分の財産、家族の財産、親族の財産を勘案すること。

人が金の貸し借りをする場合、利益を考え、サマトウラ(samatula)に従い、利息のない普通の債務やその他のいかなる債務を問わず、品物を貸し出す債権者が受領(払い戻し)を主張する場合、定められた規則に従わなければならない。債務者が支払いをしても また支払いが十分でない場合、すべての商品を鑑定して価値を決める。債務者の財産が底をついたが、また支払いが十分でなければ完済しなければならない。
資産が支払われた後は、アッラー・タアラ Allah Ta'alaから授かった金運があっても、もう督促しないほうがいい。

また彼は、私達と同様に自由な生活を求める独立した個人として権利があるので、(何度も)督促するのは良くない。その環境から出てはなりません。(自由に生きる環境の外で私たちがお金を稼ぐことを強いられているわけではありません)。ジャワ島へ捨てられるかもしれないと、考えさせてはいけない。意味するところは、その人の価値を勝手に見積もってはいけない。もしあなたの借金を減らしたいのであれば、木を根こそぎ引っ張らないでください(全財産を取らないでください)。成長を見守ってください。期待してください。生計を立てるために商品を彼に与えて下さい。

どうか 私もあなたと同じように、あなたの祈りが叶えられ、全能の神Allah Ta'alaによって祝福されることを願っています。願わくば彼があなたにすべての借金を返済できるようになってほしいということです。(終)

翻訳メモ

原書はロンタラ文字で記載され、その後ブギス語、インドネシア語、さらに英語へと翻訳されていったものと思われます。元になった写本はどちらも同じもののようですが、下記の資料1)、2)ではかなり記述が異っていました。従ってこの翻訳は大体どんなことが書かれているのか、1)、2)のインドネシア語部分、2)の英語表記の部分の3つから抜き書きしたもので、まだ大事なことが抜けがあるかもしれません。将来専門家による翻訳が出来ることを期待しています。

*写本の筆者:Muhammad ibnu Badwi, 彼が Gersik に居たときに作成した写本とのこと。彼はおそらく船長 (nakhoda) としてこ の原本を持って航海していたようだと書かれています。この写本は、マカッサルの Imam Wajo の所持していたもので、ロンタル語の原本は太平洋戦争時の火災で焼けてしまったそうです。

インドネシア語⇒日本語の翻訳は資料の一部をマカッサル在住のロビー竹内、Fify Joseph ご夫妻に協力頂きました。

資料

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