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バカル・ダム(ピンラン県)

Bendungan PLTA Bakaru, Pinrang

読売新聞(2007年5月13日)の報道



2007年5月13日(日)の読売新聞に「土砂に埋まるダム続出、公費の行方ーインドネシア円借款」の記事が掲載された。これによると、バカルダムは、日本のコンサルタント会社が設計し、国際協力銀行(JBIC)が220億円を融資して1990年に完成した。

土砂は、その直後から、ダム湖にたまり始めた。堆積する土砂は、設計段階では年平均約13万立方メートルと予測していたが、実際にはその6倍以上の約80万立方メートルが堆積。土砂を吐き出すゲートを開けても流れ出なくなったという。総貯水量(約690万立方メートル)の93%が土砂に埋まっているという。バカルダムは乾期でも周辺都市などの朝夕計6時間の電力需要を満たす発電を予定していたが、ダム湖の水不足で実際には平均約2.5時間しか運転できず、周辺の住宅や工場では日常的に停電が発生しているという。

バカルダムの場合、堆積量が予測より大幅に増えた点について、同行は「上流部の違法伐採で森林が減り、河川への土砂流入が増えたのが主原因」と説明する。しかし、建設にかかわった関係者は「ダム建設用地近くの傾斜が緩やかすぎて土砂が流れなかった。立地の問題であり、違法伐採は言い逃れにすぎない」と指摘。同行幹部も「完成からわずか20年弱で埋まってしまうのは異常。当初設計に問題があったと考えざるを得ない」と話す、と読売新聞には報道されている。

国際協力銀行の見解

これに対して国際協力銀行はホームページで「インドネシア:バカルダム・発電所の現状について」を公開している。これによると1983年にインドネシア政府の要請に基づいて円借款の契約締結し、219億円を貸し付け、1990年に完成した。土砂の堆積は計画時点では予測困難であった。ダム上流域の森林の農地転用や違法伐採による森林面積の減少が発生した。しかし発電量は計画値の80%に達し、相応の発電量が確保されているとしている。排砂ゲートも問題なく機能している。立地の問題も無い、と書かれていますが、実際はどうでしょうか。以下は現地メディアの報道です。

インドネシア KOMPAS紙の報道ほか現地情報



 2006年12月4日のKompas 紙では、

などが報道されている。

ダムの場所は、別の報道 (Panyingkul Jurnalisme Orang Biasa 2007年7月17日) によると、マカッサルの北方220kmにあるピンラン県の Tuppu からサダン河を船で1時間半遡った地点、また陸路では、山岳地帯、ジャングルを徒歩で直線距離で約27kmの地点と書かれている。行政区域は、ピンラン県 Ulusaddan, Lembang 村 Bone-Silei 地区。エンレカン (Enrekang) の近く、トラジャ山塊の入口地点である。秘境、トラジャに近いため文化的にはトラジャに近く、言語はトラジャ語の一種、宗教はイスラム教。産業はカカオ、コーヒー、キャンドルナッツ、ドリアン、コーパル、トウモロコシ、ランサなどの栽培が主であった。しかし、これら流域周辺の樹木、畑が土砂の堆積で大きな被害が出ているという。そのため、現在では若者はマレーシアへ出稼ぎに出かけ、村は彼らの送金に頼っているという。

2006年8月3日付けのKompas 紙では別の問題も指摘している。バカルダムの土砂堆積の問題のほか、乾期には降雨量が少なく、2台のタービンを廻すために必要な水量が得られない。計画では毎秒45トンの水量が必要であるが、現在(2006年8月3日)では毎秒20トン程度である。このためディーゼル発電に切り替えるが、旧式のため燃費が悪く、採算を悪化させているという。

南スラウェシの山岳地帯は年間降雨量は4000mm以上と云われていて、その大半は雨季の限られた時期に集中的に降る。そのため例年、雨季には崖崩れ等が多発、道路は寸断される。雨季における、土砂の河川への流入は、当地では異常な状態とは云えないのではないか。

Google の航空写真で、それらしき場所を探してみた。(右上の写真) 写真の左上からママサ河 (Sungai Mamasa) が、上→下(北→南)に蛇行するサダン河 (SungaiSadang) に合流している。青い水の流れの周囲の白い部分は堆積した土砂なのでしょうか。

編集:2007年7月23日
文責:脇田 清之

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